幼稚園や保育園において、子どもたちが過ごす「環境」は保育の質を左右する極めて重要な要素です。しかし、「何から手をつければいいのか」と悩まれる先生も少なくありません。
本連載では、全 3 回にわたって園の環境整備の本質を探ります。第 1 回となる今回は、環境整備の出発点である「保育のあり方」について考えます。
【連載:全3 回】
第1回「なぜ保育環境整備が必要なのか」
執筆 猪熊弘子(駒沢女子短期大学教授)
⬛︎ 園庭を変えたいという切実な悩み
最近、幼稚園や保育園の園長先生から「園を変えたい」という相談を受けることが増えてきました。
「園庭を子どもが楽しく遊べるところに変えたいと思っているのですが、どのような遊具を入れたら良いでしょうか?」
「昭和の時代からずっと園庭環境を変えていないので、園舎を新しくしたのに合わせて一緒に園庭環境も新しくしたいのですが、どのように変えていけば良いでしょうか?」
「今、言われている子ども主体の保育というものにしていきたいのですが、何から変えたら良いのでしょうか?」
そんな質問がとても多いのです。
自分でそれまでに何度も訪問したことがあり、園の先生たちも知っているような園であれば、比較的簡単に答えが出てきます。「きっとこんな保育をしたいと思っているのだろう」ということがすぐに分かるからです。
しかし、実際に訪問したことがない園では具体的にお答えするのは難しいものです。園がどのようなところにあり、どんな子どもたちがいて、どんな先生がいて、普段、どんな保育をしているかが分からなければ、その園がどんな方向を目指して保育をしているのかが分からないからです。
⬛︎「環境を通して行う保育」の本質とは
園庭を含めた園の環境整備はより良い保育を行うためにとても重要で、みんなそのことに気付いているにも関わらず、なかなか進めることができないものです。
『幼稚園教育要領』『保育所保育指針』『幼保連携型認定こども園教育・保育要領』では、保育は「環境を通して行う」と書かれています。つまり、日本の保育においては「環境」が最も重要なのです。
園の周囲にある自然や土や泥や風、森や木や花や植物、園庭にある遊具、その他さまざまなものが子どもを取り囲む「環境」として、保育を豊かなものにしてくれます。逆に環境が充実していないためにあまり良くない保育になってしまうこともあります。
都市部の保育園では「庭」がない施設も多くあります。もちろん庭があった方がより幅広い環境設定ができますが、単純に庭があるから環境が良くなるわけではありません。保育における環境の重要性を理解した上で、どのように子どもを取り囲む環境を整備していくのかを考えることが重要なのです。
⬛︎「どんな保育をしたいか」という問いかけ
冒頭に挙げたような質問をされた時に、私は逆に質問することにしています。「どのような保育をしたいと思っていますか?」ということです。いくら環境整備をしても、子どもたち全員が常に一斉に同じことをする保育を求めているのであれば、それは環境と合致しないかもしれません。子ども一人一人の発達や好奇心に合わせて、子ども主体の保育をどのように展開していくのかを考えることが必要です。つまり、保育の環境整備を行うことは、どのような保育を追求していくのかを考えることと等しいということです。
環境を構成する要素の1つに「人」もあります。子どもに直接関わる保育者も環境の一部です。そういう意味では保育者も環境整備の一環として、どのように子どもと関わり、どのような保育を行っていくのかを検討していかなければなりません。
⬛︎ 保育者と同じ気持ちで、時間をかけて育む
園の環境整備を行う際、いちばん失敗しがちなのは、設置者や経営層が理想の環境を目指して突っ走ってしまうパターンです。園で実際に子どもに関わるのは保育者です。いくら経営側の理想が豊かな保育を実現できるものであったとしても、現場の保育者が同じ気持ちになっていかなければ反発を招き、失敗してしまいます。
「園側が勝手に入れた遊具だから」と言われてしまったら、良い保育を行うはずが真逆の展開になってしまいます。それを防ぐためには時間をかけることが重要です。もしかすると数年かかるかもしれません。
まずは「どんな保育をしたいのか」を保育者と真剣に話し合い、理想の保育の姿をある程度固めた上で、どういった環境を作っていくのかを検討していきましょう。
「面白そうだから」「人気のある遊具だから」といった理由で選ぶのではなく「どんな保育をしたいか」から、環境整備をしていってほしいと思います。
