3. 「見失い」事故を防ぐために

猪熊 弘子 理事
駒沢女子短期大学教授

 昨年9月に静岡県内の認定こども園で起きた園バス内の園児置き去り事故を受けて、全国の幼児教育施設で利用している園バス等に安全装置の設置が義務付けられました。車体の後部に取り付けられたボタン等を押さないと警報音が鳴るといったものが主流ですが、バスの座席に子どもが取り残されていないことを確認せず、ボタンを押すことが目的になってしまうと、安全装置を設置しても事故は起きるかもしれません。

 園バス内の園児置き去り事故は、報道の際に「園バス」「熱中症」というキーワードで語られたことから、園バスの安全性や、熱中症の危険性に注目が集まりましたが、実は事故の原因は子どもの「見失い」にあります。実際、ほかにも「見失い」が死亡事故につながった事例が多くあります。2005年に埼玉県上尾市の公立保育所で4歳児が園舎内の本棚の下の引き戸の中に入り熱中症で亡くなった事故(=拙著『死を招いた保育』に詳しく書きました)、あるいは2018年に長野県高森町の公立保育所の園外保育中に4歳児が墓石の下敷きになって亡くなった事故、2022年に広島市内の公立保育所から園外に出た5歳児が近隣の川で溺れて亡くなった事故などです。

 見失いを防ぐためには、確実に子どもの所在を把握する必要があります。保育中も保育者は場面が変わるごとに子どもの人数を数えますし、時には名簿と引き合わせて確認していきます。デジタル機器を使った場合でも、子どもの顔を確認してから機器のボタンを押す、IC出席カードは必ず子どもがタッチするなど、機器を子どもと確実に紐付けしてアナログ的に使わなければ、ミスが起きる可能性があります。

 ちょうど秋の遠足になります。園バスがなくても、観光バスや公共交通機関を利用する園もあるでしょう。いつもと違うイレギュラーな場所に行っても、普段と同じく確実に子どもの所在把握を行うことが安全のカギになります。